メールマガジン

「忘れられる権利」とインフラの話

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

『SEOマーケティングの未来を読む vol.153』
「忘れられる権利」とインフラの話

 

【1】 大阪マラソン無事完走

大阪マラソン完走してきたのですが、今年の大会は大失敗をしてしまいました。

結果としてはこちらのブログにもあげてますが、

マラソン部部長:大阪マラソン無事完走、ボランティアのみなさまに感謝感謝


何とか完走、ついでにサブ4でぎりぎり目標達成。

失敗は何かというと
・急激な腹痛で8kmあたりでトイレにダッシュ
・バンソウコウを忘れ、左乳首が激痛

特に42.195mは4時間かけて走りますので、汗をかきますし水を浴びたりするとTシャツが重くなります。通常のランニングシャツではなく、今回クレアネットマラソン部Tシャツで走ったので、汗を吸い重くなると擦れて痛みが増すんです。

なので、ばんそうこうをはるんですが、当日朝にばんそうこうが1枚しかないことに気付き、利き手の右に貼ったものの左はスルー。

無事到着しましたが擦れました、痛い痛い。

足も痛い、ひざも痛い、いろんなところ痛いのがマラソンです。

 

【2】 WEBマーケティング4コマ漫画

◆第222話  
インサイト
呉くんがトンマナについて轟部長に質問していますが…?

◆第221話  
インサイト
呉くんと轟部長がインサイトについて話しています。

◆第220話 
プライバシー配慮
呉くんがストリートビューで見たものは?

◆第219話
社員数の数え方
呉くん達が社員数について話しています。

 

1

 

【3】「忘れられる権利」とインフラの話

情報はインターネットによって世界中から収集され世界中に拡散されていきます。

そして世界中の人々は広大なネットの海からGoogleやYahoo!といった検索エンジンを使って求める情報を得ることができます。
インターネットと検索エンジンは、情報を収集し続け、半永久的に保持し、必要な時に取り出すことのできるインフラとして機能しています。

しかし、その機能は有益な情報に対してのみ働くわけではありません。
誰かの個人情報や過去の汚点、そして誹謗中傷も、他の情報と同じようにいつまでもインターネット上に保持され続けるのです。

こうしたインターネットの機能によって深刻なプライバシー侵害を引き起こすケースが後を絶たないため、救済措置として「忘れられる権利」なるものが提唱されるようになりました。

この「忘れられる権利」とはインターネット上の個人情報や誹謗中傷を削除してもらう権利のことで、欧米を中心に活発に議論が行われています。

日本でもこの「忘れられる権利」をめぐる訴訟が少しずつ増えているそうです。
最近もある男性がこの「忘れられる権利」を求めて訴えた裁判がありました。
彼はどんな理由で訴えたのでしょうか。

裁判ではどのような判決がでたのでしょうか。

そして男性から検索結果の削除を求められていたGoogleはどのような対応をしたのでしょうか。

今回のメルマガではこの「忘れられる権利」とインターネットのお話です。

 

インターネットから過去を消したい男の事情

5年前の2011年、女子高生に金を払いわいせつな行為をし児童買春・児童ポルノ禁止法違反罪で罰金の略式命令を受けた男性がいました。

男性の氏名や住所で検索すると逮捕時の実名入りの記事がヒットする状態だったため、「逮捕から3年以上たったのに名前と住所で検索すると記事が表示され人格権を侵害されている」と男性は検索サイトGoogleの検索結果から自身の逮捕に関する記事の削除を求める仮処分を申し立てたのです。

 

「忘れられる権利」を初めて認めたさいたま地裁

この男性の訴えをさいたま地裁はどのように判断したのでしょうか。

「男性には更生を妨げられない利益がある」
「社会生活の平穏を害されない利益を侵害している」
「ある程度期間が経過すれば社会から『忘れられる権利』がある」

との理由で、2015年さいたま地裁は削除を命じる仮処分を決定し、Googleに削除を命じました。
このさいたま地裁決定は、日本で始めて「忘れられる権利」を言葉として明示した司法判断として注目されました。

しかしGoogle側は不服を申し立て、東京高裁に抗告します。

 

「忘れられる権利」を認めなかった東京高裁

2015年にGoogleに削除を命じたさいたま地裁の決定を取り消し、2016年東京高等裁判所はGoogle側の主張を認め、男性の申し立てを却下する決定をしました。

その理由は以下の通り。

「忘れられる権利は法的に定められたものではない」
「名誉権やプライバシー権に基づく申し立てと同じで独立して判断する必要はない」
「児童買春は親たちにとって重大な関心事」
「男性の逮捕歴は社会的に関心の高い行為」
「事件から5年程度たっているが公共性は失われていない」
「削除しないことで男性に限度を超す支障が生じるともいえない」

重要な点だけ要約すれば、

・逮捕情報は公共の利害に関わる
・逮捕情報の公共性は時間が立っても失われない
・「忘れられる権利は法的に定められたものではない

でしょうか。

「知る権利と情報へのアクセスを尊重した判断と考えている」とGoogle側はコメントしたそうです。

 

「忘れられる権利」が生まれた背景

インターネットが広まるにつれ、掲示板やSNSで流出した個人情報や名誉毀損に苦しむ人が増えていきました。

また、元配偶者や元交際相手のイヤガラセによって、プライベートな写真や映像をインターネット上に流出されるリベンジポルノと呼ばれる行為は深刻な社会問題になっています。

「忘れられる権利」が生まれた背景にはこうした事情もあったのです。

 

「忘れられる権利」が認められた2つの事例

2011年、若い頃に撮影した「過去のヌード写真」が名前と共にインターネットに流出され続けたあるフランス人女性がGoogleに削除を請求し勝訴。

Googleはそのデータの消去を言い渡されました。
「忘れられる権利」を認めた世界初の画期的な判決だったと言われています。

この判決がきっかけとなり、EUでは「忘れられる権利」を立法として承認する動きが生まれました。

2014年にも「忘れられる権利」があるとEU司法裁判所が判断した事件がありました。

「不動産を競売にかけられた」という個人情報がインターネットの検索で表示されるのは不当だとしたスペイン人男性の訴えが認められ、Googleにはリンクの削除が命じられたのです。

 

Google側の反論とEU司法裁判所の判断

スペイン人男性の訴えた裁判の結果に対してGoogle側は以下のように主張しました。

「検索結果は自動的かつ機械的に表示されたものに過ぎない」
「検索結果は閲覧可能な情報へのリンクを提供しているだけ」
「情報の削除権限は当該情報を公開する人にのみにある」
「検索結果の修正は検閲に当たる」

しかしEU司法裁判所はこの主張を認めず、
「検索事業者はデータ管理者として一定の義務が課される」
「検索結果に対して管理責任がある」
としたのです。

 

Googleの対応

2014年の判決のわずか17日後には、Googleは社内上級幹部と専門家による委員会を設置し「忘れられる権利」専用の削除申請ページを開設しています。

ただしGoogleは「忘れられる権利」の名の下に個人情報を削除していくのではなく、「知る権利」も両立させる努力をすると主張。個人情報の削除の必要性についてひとつひとつ審査して行うとしています。

ちなみにこの判決後Googleには削除要請約21万件が寄せられたそうですが、犯罪歴がある人からの要請はわずか2%程に過ぎなかったそうです。

 

EU司法裁判所の判断が生み出した新たな問題

「検索事業者はデータ管理者として一定の義務が課される」
「検索結果に対して管理責任がある」

としたEU司法裁判所の判断は、検索事業者、ここではGoogleのことですが、これはGoogleに広大なネットの海に漂う膨大な情報の中から目的の情報を探し出しリンクを削除するという大きな負担を強いることになりました。

しかし見方を変えれば、検索結果を表示させるか削除するかというプライバシー保護の基準を一民間企業が判断できることになり、従来のような単なる個人のプライバシー保護の話ではない問題として、その是非について新たな議論が巻き起こったのです。

言われてみればなるほど、その通りです。

 

「Google八分」の危険性

「村八分」という言葉があります。
地域の共同体には十の行事があり、そのうちの「葬式と火事」の二つ以外ではある家とは一切交流しない、という意味です。

簡単に言えば仲間はずれのことですね。

この村八分という言葉からGoogleのある行為が「Google八分」と呼ばれるようになりました。

そのGoogleのある行為とはなんでしょうか。

「検索情報として提供される情報自体はGoogleが主体的に決定できる」
「Googleは任意にそのようなことをする権限を持つ」

とGoogleは主張し、独自の基準で特定のウェブサイトをGoogleのデータベースから排除し検索結果に表示させないようにしています。

このGoogleによる検閲行為ともいえる行為が、あたかも村八分のようであることから、日本では「Google八分」と呼ばれているのです。

公序良俗に反しているためと言われていますが、こうしたデータベースからの削除の明確な根拠は明らかにされていません。

寡占状態である検索エンジンサービスの中でも世界中で最も利用者数の多いGoogleの検索結果に表示されないことは、ウェブサイトにとって大問題です。

外国の一民間企業がそのような力を持つことに危機感を持ち警鐘を鳴らす人々も存在します。

特定の企業や国に不都合な情報だけ検索結果に表示されなくなる……といったことが起こらないとは限りませんからね。

同じようなことが「忘れられる権利」においても起きるのではないか、中立性を保てないのではないか、と危機感を持つのは考えすぎとは言えない気がします。

 
 

他にもある「忘れられる権利」の問題点

「忘れられる権利」には他にも多くの問題点や危険性が存在します。

「忘れられる権利」とは基本的にはインターネット上にある個人情報をGoogleやYahoo!といった検索エンジンの検索結果から削除するように検索事業者に要請することのできる権利を言うので、検索結果に表示されなくなるだけであって、インターネットから情報そのものが削除されるわけではないのです。

そもそも実際問題として、ネット上に拡散したすべてのデータを消去するなど可能なのかという疑問も指摘されています。

また「忘れられる権利」を認めた場合、誰かの都合の良いように事実を書き換えることにつながったり、知る権利や表現の自由が損なわれたりする危険があるのではないか、という懸念もあります。
 
 

まとめ

長所と短所は表裏一体。

有益な情報を即座に拡散・検索できるインターネットには個人情報や誹謗中傷も溢れていて、個人情報やプライバシーを守ろうとすれば表現の自由や知る権利が侵害される可能性も高くなります。

「忘れられる権利」を守ろうとしたとき、その莫大なコストは誰が負担することになるのでしょうか。

裁判を除けば、そのコストを負担しているのは民間企業です。

Googleの発表によれば、2014年5月の判決から1年足らずで約40万件の削除依頼があったそうで、ひとつずつ弁護士に依頼をチェックさせ対応しているそうです。

「忘れられる権利」を守るために民間企業がコストを負っているわけですね。

日本でも注目されはじめ制度が確立されていくであろう「忘れられる権利」。

いいも悪いもこれがインターネットインフラ。気を付けないといけないものなんです。

(記載 谷 美輝)

 

 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コメントを残す

*