宝塚に引越された先輩社長への敬意

60歳、70歳になって一区切り、で会社を手放す、売り渡す、新しいことにチャレンジする、という方に最近よくお会いします。
自分がその年で引退しているとは思わないのですが、その辺は本当にいろいろですし、80歳でもお元気で活躍している方もいます。

最近とある社長から連絡もらったのですが、
「おれもう宝塚に引越したから!暇なったらおいで、いいとこやから!」
東大阪で楽しそうにされていたのに宝塚か、何か不思議な感覚と違和感を感じたのですが、長年本当にお疲れ様でした。下記はその社長との話、創業間もない頃からの仕事なのでもう11年くらい、月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人なりです。

ちなみに大阪市都島区のとあるマンション。大阪市営地下鉄谷町線都島駅ではなく野江内代駅から歩いて6、7分かかる小さなマンションの1室からのスタートでした。クレアネットという名前を決めたのはそのマンション名についていたから、いつでも原点回帰できるように。誰も聞いたことのない会社、もちろんサイトもなく、知名度もなく、隣の人もまさか隣で会社があるとは思っていもいなかったような場所。もちろん来客なんてもってのほか。誰も招けない、呼べないような会社が、ある日できました。

カネなし、コネなし、何もなし、ないないずくしからのスタート。とにもかくにも仕事をしないと干上がってしまうので、何かと営業挨拶回り。必死になって営業訪問して、挨拶をするものの門前払いの連続。愛想良く「大変だね、頑張ってね」とねぎらってくれる人がいても、ただ、仕事をくれる人はいませんでした。その日も営業回りをするものの、仕事にならずしょんぼりと帰ってきたとき携帯が鳴りました。

「知り合いがホームページを作ろうと思っているので話を聞いてやってほしい。ただ予算がないから1万くらいでできないか言っているがどうする?」

あぁ、何か間違っているような気がする。ひょいと胸に出てきた言葉はこの言葉でした。
格安路線に入って成長する企業はない、最もセオリーの言葉だけに、その格安路線でしか戦えないことに対して、もっと戦略などを考えるべきだったのだろうか、何か間違ったのではないか、そんな想いとは裏腹に元気よく応えました。

「はい!大丈夫でしょう!」

翌日東大阪のその相談をくれた会社に訪問することになりました。社長に会うなり開口一番、「予算ないから1万円で、ページ数は2ページでいいでしょう。トップページとお問い合わせだけ。いける?」社長は相手が若造と見てとったのか、ずいずいと迫って交渉してきます。社長は作業着を着ていかにも現場の職人という風貌、そして間髪要れずに話を続けて聞いていると、なかなか途切れる様子もない。聞いてもいないのに、先代の話や今までの取引先の話を進め、メモを取らないと覚えられないと感じメモ帳を用意しメモを続けると、さらにギアが加速し演説のように次から次へと話が進んでいく。1時間以上過ぎてようやく少し落ち着いたところで、さて、ではどのようなホームページにしたいでしょうか。尋ねると社長は、「ええねん。いい感じにしてもらったらええねん。あと値段はその値段で」社長は値段だけしか気にならないようで、その他は話したいことだけをまた話し始めました。

2ページのホームページはさすがにユーザー目線からすればありえない、ただ、仕事は仕事と考えて行わないとこの値段じゃ利益どころか赤字にしかならない、いろんな葛藤の中、完成後の提案をしました。 「うまくサイトができたらSEO対策なども行ってはいかがでしょうか?」必死でした。値切る社長でもお客様。もう一度仕事になったらありがたい。必死に説明を終えると社長はこのようにいいました。「いいものができたら、その後に次を考えよう」。
経営者としては赤字で利益もでなくて進めれば進めるほど赤字案件でも、製作者としては2ページのサイトはユーザー目線から違和感があるので、ページ数が増えて6ページで最低限度の紹介を行うサイトに作成し、会社概要や、商品紹介などページが増加してチェックをいただくことになりました。

すると、社長の要望は「せっかくなので、会社の写真も入れて。製品のページ作ってくれたのなら、製品写真あるからいっぱい載せといて。メールで送ったから」さらに要望はエスカレート。
もうどこまでもやってやる。やればいいんやろ。結局サイト完成し納品になったものの、通常の計算から言ってもどう考えても赤字。ただ社長はご満悦の様子。「頑張ってくれたからメシ連れてってあげる」。 メシは「かごの屋」で1,500円のメシを食べさせてくれました。これがクレアネットの最初の仕事です。

その2ヵ月後、また社長から電話がなりました。「ネットを見て電話したんですが、という依頼があってな。京大の工学部の力学の何とか言ってたわ。うちの扱っているインチネジは特殊やから、研究開発とかたまにあるんやけど、ネットはやっぱりすごいわな。ありがとな。」その話を聞いて、小さなガッツポーズをしてつつ、仕事の手ごたえを感じました。サイトを作ると同時に、「インチネジ」でもSEO対策をこっそり行い、アクセスアップ効果を生み出していたのです。お客様の期待を超越したサービスで、顧客満足を追及する、仕事のやり方は常に変わりません。自分で営業をして、自分で企画を考え、自分でデザインを行い、自分で文章を作成し、自分でプログラミングを行い、自分で請求書を発行し、自分でサポートフォローを行う、自分だけで社長の会社が変わった。虚をつかれた思いでした。これが会社を行うということ。顧客を創造するということ。一生懸命サイトを作ることで、社長が変わる、会社が変わる、従業員が変わる、取引先が変わる、そしてクレアネットの価値が変わる。

会社をやってよかった。社長が私に会社経営の本当の価値を気付かせてくれた、何よりも私を変えてくれた。以来何年経ってもこの社長は信頼してお付き合いがあって、電話をいただけます。創業以来クレアネットに信頼してくれるお客様がいるのは、いつもお客様の期待を超えようとし続けているから。顧客満足によって、会社よし、買い手よし、世間よしの三方よしを実現するのがクレアネットの考え方。クレアネットの原点の1つです。その社長は、その後サイトから引き合いが入るたびにメールをくれ、そのたびに自社の取引先や関連会社を紹介してくれました。社長からいただいたお金は微々たるお金ですが、「いいサイトを作る会社」として評判を作ってくれたのです。

信用を追ってようやくお金が後になってついてくる。お金を追うな信用を追え、これもクレアネットの原点の1つ。
年からすればうちの父と変わりません、なので社長からしても息子のようなもの、そんな縁から始まり今は宝塚で悠々自適生活。本当にお疲れ様でした。縁が良縁になって広がってほしいなという思いから、会社の創業日は六月六日にしているのですが、本当に良縁が広がりました。クレアネットという名前はいつでも原点回帰できるようにした名前、「今、自分満足してる?」「今、これで完璧と思ってる?」自問自答するたびに「全然思うようにできてない、反省猛省だらけや」となれる名前。

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